夏場の高温環境下での作業中に従業員が熱中症で倒れる—。
そんな事態を防ぐため、2025年6月から熱中症対策が企業の法的義務となります。この義務化に間に合わせるには、今すぐ準備を始める必要があるでしょう。なぜなら、報告体制の整備や症状悪化防止措置の準備、関係作業者への周知といった3つの具体的対応が求められ、これらを怠ると50万円以下の罰金という罰則があるからです。さらに重要なのは、適切な対策により労働災害を未然に防げるという点です。
本記事では、義務化の全容から企業が今すぐ取り組むべき3つの対策について、実践的な手順やポイントを解説します。これにより、法令遵守はもちろん、従業員の健康と安全を守りながら、生産性の維持も両立させる効果的な熱中症対策を実現できるでしょう。
目次
熱中症対策義務化の全容と企業が今すぐ整えるべき3つの対応
2025年6月1日から施行される労働安全衛生規則の改正により、WBGT値（暑さ指数）が28度以上、もしくは気温31度以上の環境で連続1時間以上、もしくは1日4時間以上の作業が行われる現場において、熱中症対策が企業の法的義務となります。この改正は、増加する熱中症による労働災害を防止するために厚生労働省が打ち出した重要な対策です。事業者には「報告体制の整備」「症状悪化防止措置の準備」「関係作業者への周知」という3つの具体的な対応が求められています。これらの対策を怠ると6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則があるだけでなく、企業の安全配慮義務違反にもなりかねません。ここでは、義務化の詳細と企業が今すぐ取り組むべき対策について解説します。
義務付けられる対策①：速やかな報告体制の整備と連絡先の明確化
熱中症の初期症状は見逃されやすく、対応の遅れが重篤化を招くおそれがあります。そのため、症状を認めた場合に速やかに報告できる体制を整えることが重要です。
まず、各現場や部署ごとに熱中症対策の責任者と担当者を明確に決めましょう。責任者は安全衛生管理者や現場のリーダーが担当し、担当者は複数名指定しておくことで不在時にも対応できる体制を作ります。
次に、熱中症の症状を認めた場合の連絡先と報告ルートを明確にします。現場作業者→担当者→責任者→医療機関という連絡ルートを図示したフロー図を作成し、全員がすぐに確認できる場所に掲示するとよいでしょう。
最も重要なのは、作業者本人や同僚が躊躇なく報告できる雰囲気づくりです。「少し具合が悪い」という初期症状の報告も積極的に推奨し、報告した人を責めないという職場文化を醸成しましょう。
義務付けられる対策②：症状悪化防止措置の具体的手順の作成
熱中症の症状が現れた場合、素早く適切な対応をとることで重症化を防ぐことができます。そのためには、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察や処置を受けさせるための具体的な手順をあらかじめ作成しておくことが義務付けられています。
症状悪化防止措置の手順には、以下の項目を必ず含めましょう。
これらの手順は、症状の程度に応じたフローチャート形式でまとめるとわかりやすくなります。特にアイスパックやスラリーアイスなどの冷却グッズの保管場所、使用方法も明確に記載しておきましょう。
また、季節前には実際に使用する設備や備品の動作確認を行い、いざというときに慌てることがないよう準備しておくことが大切です。熱中症の症状は急激に悪化することがあるため、判断に迷った場合は早めに医療機関へ搬送することを原則としたマニュアルを作成してください。
義務付けられる対策③：関係作業者への確実な周知方法と実践
いくら優れた対策を準備しても、現場の作業者に周知されていなければ意味がありません。関係作業者への確実な周知は、熱中症予防の要となる重要な義務です。
効果的な周知方法として、以下の取り組みを組み合わせて実施しましょう。
特に外国人労働者が働く職場では、多言語での資料準備や通訳を介した説明会の実施が重要です。厚生労働省が提供している多言語の熱中症対策リーフレットを活用するのも良い方法です。
周知後は理解度をチェックする簡単なテストを実施することで、知識の定着を確認できます。また、現場でのヒヤリハット事例を共有し、実際の状況に基づいた対策の見直しを定期的に行うことで、より実効性のある熱中症対策が実現できるでしょう。
職場環境別に見る効果的な熱中症予防対策の実践方法
職場における熱中症リスクは、業種や環境によって大きく異なります。工場では屋根からの輻射熱、建設現場では直射日光、物流倉庫では通気性の悪さがそれぞれ課題となっています。2025年6月1日からの熱中症対策義務化に向けて、各職場環境に適した対策を講じることが重要です。ここでは、科学的根拠に基づいた熱中症リスク評価の方法と、効果的な予防策を職場環境別に解説します。特に、輻射熱による室温上昇を防ぐ環境改善策は、根本的な熱中症予防として高い効果を発揮します。適切な対策を実施することで、従業員の健康を守りながら、生産性の維持も両立させることができるでしょう。
WBGT値に基づいた作業環境の正確な評価と管理
熱中症予防の第一歩は、作業環境の暑さを正確に把握することです。WBGT（湿球黒球温度）は、熱中症リスクを評価する国際的な指標であり、単なる気温より正確に暑さ指数を表します。
WBGT値は、気温だけでなく湿度や輻射熱も考慮した総合的な指標です。21℃～25℃で注意（レベル2）、25℃～28℃で警戒（レベル3）、28℃～31℃で厳重警戒（レベル4）、31℃以上では危険（レベル5）とされています。各事業場では、WBGT測定器を設置して定期的に記録することが推奨されます。
測定のポイントは、実際に作業を行う高さで測定し、一日のうちでも最も暑くなる時間帯の値を記録することです。また、直射日光の有無や風通しの状況によって同じ施設内でも値が異なるため、複数箇所での測定が望ましいでしょう。
測定結果は記録表に時間帯ごとにまとめ、WBGT値に応じた段階的な対策（作業時間制限、休憩頻度増加など）を実施する判断材料として活用してください。
作業時間の適切な管理と休憩スペースの効果的な設置
高温環境での連続作業は熱中症リスクを高めます。WBGT値や作業強度に応じた作業時間の管理と、効果的な休憩の取り方が重要です。
WBGT基準値から1℃程度超過している環境では、1時間当たり15分以上の休憩が必要です。2℃程度超過すると30分以上、3℃程度超過すると45分以上の休憩が必要となり、それ以上超過する場合は作業中止が望ましいとされています。特に暑熱順化していない作業者はより長い休憩が推奨されます。
特に、防護服など熱がこもりやすい服装を着用する作業では、より慎重な時間管理が求められます。
休憩スペースは、作業場所から近く、かつ十分に涼しい環境を確保しましょう。効果的な休憩場所の条件は、エアコンや扇風機による冷却設備があること、日陰であること、水分補給が容易にできることの3点です。
作業者を複数のグループに分け、交代で休憩するローテーション制を導入することで、生産性を維持しながら熱中症予防を実現できます。また、朝の比較的涼しい時間帯に重作業を集中させるなど、1日の作業計画を工夫することも効果的です。
水分・塩分補給と健康管理の具体的なルール作り
熱中症予防には、適切な水分・塩分補給と日々の健康管理が欠かせません。喉の渇きを感じてからでは遅いため、計画的な補給ルールを作りましょう。
水分補給は、のどの渇きを感じる前に定期的に行うことが重要です。厚生労働省の「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」では、20〜30分ごとにカップ1〜2杯程度の水分摂取が望ましいとされています。単なる水よりも、塩分などの電解質と糖分を含む経口補水液の方が効果的です。経口補水液は水分と塩分を身体に素早く吸収させます。
各作業場所に給水ステーションを設け、冷たい飲料水と経口補水液を常備しておくと良いでしょう。タイマーを活用して水分補給の時間を知らせる仕組みもおすすめです。
健康管理面では、朝礼時に体調チェックリストを活用し、睡眠不足や体調不良、持病のある作業者を把握することが大切です。特に、睡眠不足、発熱、前日の飲酒といった状態は熱中症リスクを高めます。また、新規配属者や久しぶりに高温作業に従事する人は暑熱順化ができていないため、順化には約1～2週間かかることを考慮した配慮が必要です。
投資対効果で選ぶ職場の熱中症対策ソリューション
労働安全衛生法に基づく職場の熱中症対策強化を前に、多くの企業が効果的かつ経済的なソリューションを模索しています。対策には短期的な対応と長期的な環境改善があり、それぞれコストパフォーマンスが異なります。ここでは、初期投資額だけでなく、長期的な維持費や電気代、さらには熱中症リスク低減効果を含めた総合的な投資対効果の視点から各対策を比較します。エアコン増設は即効性がありますが、広い空間では電気代が膨大になるため、輻射熱を根本的に遮断する遮熱シートなどの対策も検討価値があります。導入を検討されている方は、工場や倉庫の構造や作業内容に合わせて最適なソリューションを選択し、無料相談や見積もりを活用することをお勧めします。
即効性のある暑熱環境改善策とコスト比較
職場の熱中症対策として、どのソリューションが最も効果的かつ経済的なのでしょうか。それぞれの特徴とコストを比較してみましょう。
一般的に最も即効性があるのはエアコン増設ですが、工場や倉庫などの広い空間では初期投資（坪あたり15〜25万円）に加え、電気代が月に数十万円に達することもあります。また、屋根からの輻射熱が強い環境では効果が限定的な場合も少なくありません。
一方、遮熱シートの導入は初期投資（坪あたり2〜5万円）こそかかりますが、長期的に効果が持続し、追加の電気代などのランニングコストがかかりません。静岡大学の実証実験では、遮熱シート施工により日中の屋根裏温度が5℃～9℃低下し、電気料金を最大27％削減できることが確認されています。これらの効果を考慮すると、投資回収期間は3〜5年程度と考えられます。
スポットクーラーやミスト装置は比較的安価（1台15〜50万円）で導入できますが、冷却範囲が限られ、ミストは湿度上昇による不快感を伴うこともあります。工場内の配置や作業環境によって効果に差が出るため、局所的な対策として検討するとよいでしょう。
遮熱シートによる輻射熱カットで実現する室温低減効果
工場や倉庫の室温上昇の主因となっているのは、屋根からの輻射熱です。IS遮熱シートは、この輻射熱を最大97%カットする画期的なソリューションとして注目されています。
IS遮熱シートは、両面アルミ素材に特殊コーティングを施した0.2mm厚の薄型シートです。太陽光が当たる屋根面に熱が蓄積され、その熱が室内に輻射するのを遮断する原理で効果を発揮します。従来の遮熱塗料（輻射熱カット率60〜70%）や断熱材（施工に時間がかかる）と比較しても、施工の手軽さと高い遮熱効果で優位性があります。
実測データでは、遮熱シート施工により日射を浴びる昼間時には施工なしと比較して約5℃～9℃の温度低下が確認されており、夏場の高温環境を大幅に改善できます。特に気温が上昇する午後の時間帯ほど効果が顕著であり、熱中症リスクが最も高まる時間帯の労働環境を効果的に改善できます。
さらに、折板屋根、スレート屋根、鉄板屋根など様々な建物形状に対応可能で、工場の操業を止めることなく3〜4日程度で施工が完了する点も大きなメリットです。
熱中症対策と省エネを両立させる環境改善の成功事例
遮熱シートによる環境改善は、実際の現場でどのような効果をもたらしているのでしょうか。具体的な導入事例を見てみましょう。
自動車部品工場などの製造現場では、遮熱シート導入により夏場の室温が低下し、WBGT値の改善が期待できます。熱中症予防の観点からは、WBGT値を「厳重警戒」レベルから「注意」レベルに低減することが重要です。これにより熱中症リスクが「厳重警戒」レベルから「注意」レベルまで低減され、作業効率の向上と熱中症による労働災害ゼロを達成しています。
食品工場では、室温低下に伴い空調設備の電力消費量が削減され、電気代の節約につながります。業務用エアコンの設定温度を1℃調整するだけでも約10%の消費電力削減が可能であり、遮熱対策と組み合わせることでさらなる省エネ効果が期待できます。
また、千葉県の物流倉庫では、遮熱シートと既存の冷房設備の併用により、庫内温度のムラが解消され、荷物の品質保持と作業環境の両方が改善。従業員からは「体感温度が大幅に改善した」「夏場の疲労感が減少した」との声が寄せられており、労働環境の質的向上にも貢献しています。
導入を検討する際は、建物の構造や使用状況に応じた最適な施工方法の提案を受けることが重要です。多くの導入事例を持つ専門業者に相談することで、より効果的な熱中症対策が実現できるでしょう。
・暑さ対策の新定番｜工場の屋根に遮熱シートで室温10度低下！輻射熱93%カットを実現
企業の熱中症リスク管理と安全衛生体制の構築手順
2025年6月1日からの熱中症対策義務化に向けて、企業は体系的な安全衛生体制の構築が求められています。単発的な対策ではなく、組織全体で取り組む継続的な仕組みが必要です。ここでは、熱中症リスク管理を含めた安全衛生体制の構築手順を、PDCAサイクルの観点から解説します。責任者の選任から実際の対策実施、効果測定まで、段階的に整備することで、労働安全衛生法の要件を満たしながら従業員の健康を守る体制が実現できます。中小企業でも無理なく始められる取り組みから、徐々に高度化させていく方法もご紹介します。まずは現状の体制を見直し、今後の対策について専門家に相談してみることをお勧めします。
従業員教育と意識向上のための効果的なプログラム
熱中症対策を確実に実践するためには、従業員一人ひとりが正しい知識を持ち、自発的に行動することが重要です。そのための効果的な教育プログラムを作りましょう。
まず、熱中症の基礎知識を伝える研修を毎年の暑熱シーズン前に実施するのが理想的です。事業者、産業医、衛生管理者、安全衛生推進者又は衛生推進者が中心となり、熱中症予防対策について検討するとともに、事業場における熱中症予防に係る責任体制の確立を図ることが重要です。
座学だけでなく、実際に現場で対策を実践する実習形式を取り入れることで、知識の定着率が大幅に向上します。研修資料は厚生労働省の資料を活用しつつ、自社の作業環境に合わせた具体例を盛り込むと効果的です。現場で作業を管理する者等に熱中症予防対策を行わせる場合は、教育研修を受けた者等熱中症について十分な知識を有する者のうちから、熱中症予防管理者を選任し、同管理者に対し、業務について教育を行うことが求められます。
日々の意識向上策として、次のようなアプローチが有効です。
特に効果があるのは、従業員自身が「熱中症予防推進員」として活動する仕組みです。各作業グループから選出された推進員が中心となって対策を進めることで、現場の自主性が高まります。
熱中症発生時の緊急対応マニュアルと連絡体制の整備
熱中症は発症から重症化までの進行が早いため、迅速かつ適切な対応が不可欠です。緊急事態に備えた明確なマニュアルと連絡体制を整備しましょう。
2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則では、事業者に対して熱中症患者の報告体制の整備や、熱中症の悪化を防止する措置の準備を行い、それぞれ作業従事者に対して周知させることが義務付けられます。緊急対応マニュアルには、以下の内容を明確に記載します。
マニュアルは文字だけでなく、フローチャート形式や写真入りで作成すると、緊急時でも迷わず行動できます。内容は医療機関の助言を得て作成すると、より実践的なものになります。
連絡体制は「現場作業者→班長→安全衛生担当者→救急隊・医療機関」という流れを明確にし、各担当者の連絡先を複数箇所に掲示しておきます。事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等の作成が求められます。最低でも四半期に1回は緊急対応訓練を実施し、マニュアルの内容を全員が実践できるよう備えておくことが大切です。
継続的な改善と効果測定で実現する安全な職場環境
熱中症対策は一度整備して終わりではなく、継続的な改善が不可欠です。効果を定量的に測定し、PDCAサイクルを回すことで、より安全な職場環境を実現しましょう。
効果測定に活用できる主な指標は次のとおりです。
これらのデータを月次または週次で収集・分析し、安全衛生委員会で検討します。特に効果的なのは、データの可視化です。グラフや表にして作業場に掲示することで、全従業員がリスクと対策効果を直感的に理解できます。
改善サイクルを回すためには、「環境改善」「作業管理」「健康管理」の3つの観点から対策を見直します。特に効果が高いのは、遮熱対策などの環境改善です。WBGTは、人体と外気との熱のやりとりである「熱収支」に注目し、気温、湿度、輻射熱の3つを考慮にいれた指標で、その影響割合は気温が1割、湿度が7割、輻射熱が2割とされています。輻射熱を根本的に遮断することで、WBGT値の低減が可能になります。専門業者による環境評価を定期的に受け、客観的な視点からの改善提案を取り入れることも検討してください。
まとめ
熱中症対策に関する貴重な情報をお読みいただき、ありがとうございます。2025年6月から施行される熱中症対策義務化は、多くの企業にとって重要な課題となります。本記事では、法的要件を満たしながら従業員の健康と安全を守るための実践的な対策を解説してきました。職場の熱中症リスクを効果的に低減するためには、計画的かつ総合的なアプローチが欠かせません。
企業が今すぐ取り組むべき重要ポイントは以下の通りです。
- 熱中症の症状を認めた場合の報告体制を整備し、責任者と連絡先を明確化する
- 症状悪化防止のための具体的手順を作成し、冷却方法や医療機関への搬送基準を明記する
- 全従業員への効果的な周知方法を確立し、定期的な教育と訓練を実施する
- WBGT値に基づいた科学的な作業環境評価と、それに応じた作業時間管理を徹底する
- 屋根からの輻射熱を遮断する遮熱シートなど、投資対効果の高い環境改善策を検討する
これらの対策を実施することで、法令遵守はもちろん、労働災害の防止や生産性の維持にもつながります。熱中症対策は一度整備して終わりではなく、継続的な改善が重要です。お客様の職場環境に最適な対策をご提案いたしますので、どうぞお気軽に当社までご相談ください。